胃のおはなし
医師 戸田 美佐
昔から、日本人は慢性胃炎や胃潰瘍、胃ガンと言った胃の病気に悩まされ続けてきました。
かの文豪 夏目漱石は出血性潰瘍で亡くなられましたし、
潰瘍は日本人の10人に1人がかかると言われるほどです。
胃ガンは減少傾向とは言うものの、未だに世界各国に比べて圧倒的に多く、
世界の中ではずーと日本が第一位です。
現在の日本の胃ガン死亡率は、10万人に対して男性が45人、女性が18人ですが、
50年前の半分に減っています。
これは検診による早期発見や、診断と治療レベルの発展が貢献しています。
それでもなお胃ガンが多い原因として、塩分の高い日本食、炭水化物の摂り過ぎ、
野菜不足、喫煙などが挙げられています。
最近ではヘリコバクター・ピロリ菌(HP菌)が関係するとも考えられていますが、
今回は「胃に優しい生活のススメ」をお話をしましょう。
胃に優しい食事や日常生活はどういうものでしょうか。
まず、一日3回、規則正しく食事をし、十分な睡眠をとって生活のリズムを守ることです。
楽しい雰囲気で、よく噛んでゆっくりと食べることは、スムーズに消化・吸収することに繋がります。
ストレスが関わると、胃の血流が悪くなり、胃壁を守る粘液は減少し、
反対に胃酸は増えて潰瘍のもとになります。
胃酸は食物の消化のためには必要ですが、自分の胃壁を消化しては困ります。
胃酸と胃粘液のバランスが崩れると、胃炎や潰瘍、
ひどいときには胃や十二指腸に穴が開くこともあります。
喫煙は胃の血流を減らして潰瘍を治り難くしますし、再発の危険性も高くなります。
飲酒は胃粘膜を直接傷つけ、空腹時には出血性急性胃炎を起こすことがあります。
潰瘍になってしまったら、胃を刺激するような熱いものや冷たいもの、
コーヒーや香辛料、胃酸分泌を促すような味の濃いものや酸味の強いものは控えて下さい。
イカ、タコ、貝類、干物のような固いものや、
セロリ、ゴボウ、海藻類のような繊維の多いものは消化しにくく、
胃に負担をかけるので、食べ過ぎないようにしましょう。
潰瘍の薬は症状がなくなったからすぐに止めると再発することが多いので、
指示通りに飲んで下さい。
胃の弱い人、胃の病気になったことのある人は、無症状でも定期的に検査を受けるほうが良いです。
胃の手術を行った人は、一度に多くの量は食べられないので、
一日の食事を5~6回に分けると良いです。
消化の良いバターやマヨネーズなどの油は適当に摂って、
栄養とカロリーが不足しないように気をつけて下さい。
少しづつ、ゆっくりと、よく噛んで食べれば、
食物が急に腸に入って気分が悪くなることを避けられますし、
糖分が急速に吸収されて、血糖が急上昇することも防げます。
このように、毎日の積み重ねとなる食生活や生活環境を見直すことは重要です。
その他、リウマチや関節症などで痛みが強いために鎮痛剤が離せない人は、
大抵予防的に胃薬を一緒に内服しますが、そのために潰瘍になってしまうことがあります。
たとえ胃潰瘍になってしまっても鎮痛剤が止められない場合は、
潰瘍の治療薬を併用することになりますが、胃潰瘍の状態によって治療が異なりますので、
定期的に胃カメラで確認して治療計画を立て直す必要もあります。
胃潰瘍の内服薬にしても、潰瘍の段階によって適した薬が異なりますので、
前回、効果があったからと言って、同じ内服薬が効くとは限りません。
胃痛・胃もたれ・胸やけ・腹部膨満感など、おなかの症状で気になることがあれば、
検査が必要か、内服薬を変更したり追加したりするべきかなど、主治医にご相談下さい。
最近よく耳にするヘリコバクター・ピロリ菌(HP菌)が、今回の話題です。
HP菌は、1982年に発見されてから、慢性胃炎や潰瘍に関係することが判りました。
日本では二人に1人はHP菌に感染していると言われ、40~50歳以上の70~80%が
感染していると言われます。
主に経口感染すると言われていますが、感染経路は十分明らかではありません。
感染すると、ほとんどが慢性胃炎の状態になります。
つまり胃粘膜がもろくなり、胃酸やストレスの影響を受けて傷つきやすくなってしまいます。
このうち、潰瘍を引き起こすのは数%に過ぎず、
胃ガンと併せ持っているのは1%以下と言われています。
HP菌だけでは潰瘍発生に決定的とは言えず、生活習慣や環境因子が影響してくると言うことです。
考えられる潰瘍の原因としては塩分の摂り過ぎや喫煙が挙げられますが、
精神的・肉体的ストレスも引き金となります。
HP 菌の診断と除菌治療は、2000年11月から保険適応になりました。
胃の症状がなく、潰瘍病変もないものの、たまたまHP菌が見つかった場合は、
必ずしも除菌しなくてもよいとされています。
胃病変があって除菌した場合は、除菌が成功すれば再感染はほとんどなく、
潰瘍の再発も見られなくなると言われています。
また、胃ガンの前段階となりうる、ある種のポリープが、除菌によって縮小するという報告があります。
また、HP菌の起こす慢性胃炎による粘膜変化が、胃ガン発生の元になるという説がありますが、
詳細は不明で、現在なお研究中です。
HP菌に感染していて難治性潰瘍や再発性潰瘍に悩んでいる方は、
除菌できれば胃薬を飲み続けずに済むことが期待されます。
HP菌除菌のためには、胃酸分泌抑制剤と抗菌剤を1日2回、1週間内服するだけです。
潰瘍の薬は除菌の治療期間も合わせて、1~2か月内服してから、
潰瘍が治ったことと、完全に除菌できたかどうかを数ヵ月後に再び確認するのが良いでしょう。
除菌後に逆流性食道炎が増えるとも言われましたが、実際の因果関係は証明されていません。
除菌の有効率は約9割で、耐性菌のために除菌できないことがありますが、
抗菌剤の種類を換えて再除菌する方法がとられています。
当院では、随時胃カメラ検査を行っており、同時にHP菌の検査も行っておりますので、
ご希望の方は主治医にご相談下さい。